日本語学習支援における
デジタル教科書の活用について
~横浜市 国際教室での取り組み~

神奈川県横浜市の小中学校には、外国籍もしくは外国につながる児童生徒が1万人以上在籍し、全小中学校のおよそ1/3の学校で日本語指導を行う国際教室が設置されています。
さらに市内2か所に来日間もない子ども達が集中的に指導を受ける、日本語支援拠点施設が設けられるなどサポート体制が整えられています。




国際教室を設置

横浜市の国際教室の子ども達は、通常のクラスに在籍し、一部の授業や時間を国際教室で学ぶという「取り出し指導」のスタイルでサポートを受けています。また、初期の日本語指導を行う日本語支援拠点施設「ひまわり」(中区)と「鶴見ひまわり」(鶴見区)では、対象の子ども達が集中的に4週間限定で週3日通級し、日本での学校生活の準備をすることができます。



日本語支援拠点施設「鶴見ひまわり」日本語支援アドバイザーの横溝亮先生に、日本語指導におけるデジタル教科書活用についてお話を伺いました。横溝先生は国際教室での指導経験が豊富で、2019年から国際教室での国語指導に学習者用デジタル教科書+教材(以下「学習者用デジタル教科書)という)を使用してきました。市内各校をまわり、研修や国際教室の授業アドバイス等を行っています。

日本語支援アドバイザー横溝亮先生
日本語支援アドバイザー横溝亮先生
日本語支援アドバイザー横溝亮先生


学習者用デジタル教科書の
活用シーン

日本語指導の現場ではどのように学習者用デジタル教科書が活用されているのでしょうか。横溝先生が実感してきた学習者用デジタル教科書の活用効果を、シーン別に見ていきましょう。

活用効果①:ルビの表示、非表示が容易にできる

特に非漢字圏から来た子ども達にとって、文字を読む際に漢字は大きなハードルとなり、学習を進める上でルビは必須です。以前は手書きでルビを振るなど大変な手間がかかりましたが、学習者用デジタル教科書ではルビの表示、非表示を簡単に切り替えることができます。子ども達にとって、ルビを“卒業”することは成長を実感できる1つの指標になっています。

ルビ表示の有無を切り替えられる(左)
文字の大きさやふりがなの色、背景色の変更をすることもできる(右)


活用効果②:本文全体の概要を捉える

国際教室では、在籍クラスとの学習の進度を合わせて、よりわかりやすい言葉や表現で教えることで理解が深まり、子ども達の自信につながります。学習者用デジタル教科書には単元ごとに本文の概要を捉えるワークが収録されています。限られた時間で言語にハードルのある子ども達の理解を深めることに大きな助けとなります。

学習者用デジタル教科書収録のワーク教材の1つ


活用効果③:個別の進度に応じて学習できる

国際教室にはバックグラウンドも日本語の習熟度も学年も異なる児童生徒が集まるので、個別の対応が必須です。各自の端末で学習者用デジタル教科書が使えると、授業の隙間時間に漢字の読みのフラッシュカードを使ったり、朗読を聞いたりできるので、個別の指導がしやすくなりました。個々の状況にあった学習を子ども達自身のペースで進めることができます。

漢字の読みのフラッシュカードを使っている様子

活用効果④:朗読を活用して自分で学べる

在籍クラスの国語ではよく音読が宿題になりますが、日本語指導が必要な子ども達の家庭は保護者も日本語が得意ではないことが多く、家庭で音読のチェックをするのは困難です。学習者用デジタル教科書の朗読を利用すれば、子ども達自身が見本となる音声を再生しながら練習することができ、自分の力で学ぶことができます。

読み上げの画面

活用効果⑤:マイ黒板で要約の学習が促進される

日本語の習熟が十分でない子ども達にとっては、文章を書き写すだけでも大変な作業です。そのため要約の学習には長い時間が必要でした。学習者用デジタル教科書の機能の1つである「マイ黒板」を使うと、本文をなぞるだけで文章を抜き出すことができるので、書く作業に時間を取られず、その分言葉の選び方などを繰り返し深く考えることができました。

マイ黒板



デジタルと紙の良いところをどちらも生かす

学習者用デジタル教科書を積極的に活用してきた横溝先生ですが、紙を使う学習も大切にしています。例えば『ウナギのなぞを追って』の単元では、模造紙を使い学習のまとめをしました。デジタル教科書を使うよりも、対話をしながら思考を深められると考えたからです。

一方、学習者用デジタル教科書の教材を積極的に活用することもあります。本文の内容に応じて挿絵を並べ替えるワークはよく使用するものの1つです。まず個別で並べ替えを行い、それを発表や話し合い活動につなげることができるので、黒板だけで同様の活動を行うよりも対話的な活動につながっています。

また、マイ黒板は書字の負担がない分思考の時間を確保できると考える横溝先生は、子ども達の書く作業が減ることを不安に思う先生方に対して、「デジタル教科書は思考の時間、ノートは書く時間という形で切り分けて考えていけば、それぞれのいいところを取りながら学習を進めることができるのではないかと思います」とアドバイスします。

日本語支援拠点施設「鶴見ひまわり」の教室で


いつでもどこでも自分で学べるツールとして

横溝先生は、日本語指導が必要な児童が多く在籍する小学校での勤務経験が長く、日本語の力が教科の学習に大きく影響することを実感しています。話せるけれど読めないという子ども達が多く、ちょっとした聞き間違いが内容理解に影響することが常です。教員向けの研修では、ハードルのある子ども達の気持ちを実感してもらうために、小学校1年生の算数の文章題を英語で解いてもらうこともあるそうです。

現在、学習者用デジタル教科書の活用はまだ一部に限られていますが、将来的には、通常の学級でも国際教室でも境目無く、1人1台の端末で利用できることが理想的だと横溝先生は考えています。また、「自宅でも学校でも自分のツールで学べるということが、子ども達にとっては大事だと思います」と話し、家庭では日本語力をつけることが困難な子ども達が、自分の力で学ぶためのツールになることに大きな期待を寄せています。

子ども達の家庭環境にも思いを寄せ、日本での学びに伴走する先生達の存在は、子ども達にとって大きな力となるでしょう。学習者用デジタル教科書が学びの現場で、子ども達と先生の両方を助け、つなげる役割を担っています。


※記事中の児童生徒数、学校数は2021年度のものです。