誰もが自分のやりやすい方法で輝けるチャンスを
~香川大学教育学部附属坂出小学校~

香川大学教育学部附属坂出小学校では、ICTを積極的に活用し、先生方は日常的にすべての子どもたちが学びやすい環境を考えています。国語科で活用されている学習者用デジタル教科書+教材についてお話を聞いてみると、ICTが後押しするインクルーシブな環境が見えてきました。




困難さのある子どもたち

同校には通級指導教室などの設置はありませんが、先生方の実感としては、クラスに数名ずつは特定のことが特に苦手だったり、多少の困難さがあったりする子どもたちがいます。特性は多様で気にかかる程度も様々ですが、先生方は子どもたちの特性を受け止め、通常の授業の中でクラス全体に対してインクルーシブな視点で工夫をしています。それを支えている要素の1つが、デジタル教科書を含むICTの活用です。まずはデジタル教科書の活用例から見ていきましょう。




「マイ黒板」でスムーズに活動に入ることができる:6年生

6年生の国語科を担当する東泰右先生は、現在全面的にデジタル教科書を使用しています。「時計の時間と心の時間」の単元では、デジタル教科書の「マイ黒板」の機能を使って各段落の内容を捉えました。段落ごとに大切だと思う一文を抜き出して「マイ黒板」に整理し、それを見せ合いながら考えを比較する交流を行ったのです。

6年生国語科 東泰右教諭
6年生国語科 東泰右教諭

マイ黒板は本文をなぞるだけで簡単に引用ができる




東先生が注目するのは、「マイ黒板」を使用すると色々な特性の子どもたちが活動に参加しやすくなるという点です。紙の教科書に線を引いたりノートに本文を書き出したりする作業に比べて、直感的な操作で本文を引用することができ、やり直しも簡単なので、書くことが苦手な子どもも作業しやすいようです。さらに、まとめた内容を見やすいということが、子ども同士の交流を促します。「それぞれがどの言葉に着目したのかがよく分かるので、「マイ黒板」を見せ合って交流する際に、お互いの考えの比較がとてもしやすいです。色々な特性の子どもが活動に参加しやすくなると感じています」と東先生。「マイ黒板」の機能が子どもたちの背中を押す様子が見えます。

画面を見せ合って意見交換





「ワーク」の活用で苦手なことも楽しく学べる:3年生

3年生担任の小出早織先生は、今年度初めてデジタル教科書を使い始めました。まず試したことは、ローマ字の習熟に「ワーク」の機能を役立てることです。デジタル教科書の「ワーク」には、アルファベットの書き方の動画や、難しい表記の問題などが掲載されていて、復習や自習に活用しやすくできています。この問題を使用して、拗音や長音、促音などのつまずきやすいポイントを復習しました。

3年生担任 小出早織教諭
3年生担任 小出早織教諭

大型ディスプレイで示しながら授業を進める(左)
相談しながらデジタル教科書のワークに取り組む(右)




授業では、「ワーク」の選択問題をクイズ形式で使用。「書くとなると、難しいところは子どもたちの手が止まりがちですが、2択問題なので楽しみながら学習ができました」と小出先生は振り返ります。「スタンプ」機能で好みのマークを追加できることも、子どもたちの学びの意欲を促進している様子です。今回の授業では使用していませんが、「朗読」機能は日本語が得意ではない子どもの日本語学習をサポートするのに有効だと注目していて、今後個別に声を掛けて利用の機会を増やしていく予定です。

ワークの2択問題。スタンプ機能も便利





「ふせん」機能で考えをまとめる:2年生

2年生担任の岡根平先生は、いくつかの単元でデジタル教科書を使用しています。「かんさつ名人になろう」では、デジタル教科書の「ふせん」機能を使って考えをまとめる活動をしました。「ワーク」の例示を参考に、身近なものの観察に大切な視点を考え、「ふせん」機能に書き出して【観察のレンズ】としてまとめました。その「ワーク」画面はスクリーンショットを撮り授業支援ツールで共有。それぞれの考えに共通点や相違点があることを画面上で確認したうえで、直接交流する時間を設けました。

2年生担任 岡根平教諭
2年生担任 岡根平教諭
画面を見せ合い意見交換する様子




2年生なのでキーボードでのローマ字入力ができる子どもは限られていますが、それ以外にも平仮名のフリック入力やペン入力など、自分がやりやすい方法を使うように指導しているため、活動はスムーズです。「ふせん」の色で分類するなど思考を深めている様子も見られました。岡根先生は、初めてデジタル教科書を使う子どもたちのために、操作に慣れる時間を設け、表示色やページ送り、「朗読」スピードなど、自分の好きな設定で使えることを伝えました。「ちょっとしたことかもしれませんが、子どもたちが手段を選べるということは、私たちが気づいていないレベルで学びやすくなっている子どももいるのではないかと思います」。

低学年でもフリック入力はスムーズ(左)
ワークの画面。考えをまとめやすい(右)





国語の授業でデジタル教科書を活用している3人の先生方に、
ふだん感じていることなどをお聞きました。

左から、2年生担任の岡根平教諭、6年生の国語科東泰右教諭、3年生担任の小出早織教諭

学びやすいスタイルは多様

デジタル教科書の活用で学び方が多様化しているように見えます。

東)書くことの選択肢が増えただけではなく、読むことに関しても変わったと感じています。みんなで同時に読むことに、ついていけず、今どこを読んでいるのかが分からなくなり、集中が切れてしまう子どもがいます。紙の教科書では、ぱらぱらめくりながら読みますが、デジタル教科書は「スクロール」しながら読めたり、「朗読」してくれたり、今どこを読んでいるのかを「ハイライト」表示させたりできます。デジタルの方が頭に入ってきやすく、集中できるという子どもは一定数います。逆に紙ではないと集中できないという子どももいるので、読むときはどちらでも好きな方を選択できるようにしています。


岡根)書くことも読むことも、多様な方法から選択できるということが大きいです。特に低学年だと、初めはパソコンに触れるというだけでも意欲が上がり楽しんでいるところがありますが、自分でいろいろと試していく中で、自分にとって一番良い方法を選んでいくようになります。そのためにも、まずはいっぱい触らせてあげることが大切だと思っています。例えば、「朗読」のスピードをとても速くしたとしても、それがその子どもにとってベストの速さかもしれないので、こちらが決めつけるのではなく、その子どもに合った方法がそれぞれにあると考えたいです。


東)子どもたちが十分にパソコンを使いこなせているなどの土台がそろっていれば、手段を1つに絞ることもあります。例えば私は、思い切って6年生の国語では紙のノートを使わずに授業支援ツールをノートとして活用しています。そのまま提出をしたり、意見の共有をしたり、紙のノートのように画面を見せ合って意見を交換したりして便利に使っています。

子どもたちの見えなかった輝ける場面が見える

ICTの活用を通して、子どもたちにはどのような変化がありましたか。

小出)書くことが苦手でパソコンがとても得意な子どもの場合、ふだんは国語の授業でなかなか活躍できなくても、パソコンを使う活動では、自分の考えをまとめる活動ができて生き生きと授業に参加している様子が見られます。主役が絞られるのではなく、どの子にも輝けるチャンスが広がるということがデジタルのよさなのだと感じています。


岡根)人前で話すことが苦手な子どもは、誰かの前で音読を披露するときに難しさを感じてしまいますが、パソコンに向かって自分で音読する姿を録画する方法にすると、とても表現豊かな音読ができたということがありました。デジタルという手段を使わなければ、その子どもにそんな力があるということが私にも見えなかったと思います。本来見るべき能力や資質に関して、その子どもの輝くポイントが見えやすくなることがICTやデジタル教科書のよさだと思います。


東)「マイ黒板」を使用すると、子どもの思考の過程が見えるようになったと感じています。登場人物の人物像を考えるときに、本文から根拠になる叙述を抜き出して、気づいたことを書き添えている子どもがいて、考えている途中の頭の中が画面に現れていると気づきました。ワークシートだと、何をどこにどのくらい書くのかという枠を決めすぎてしまい、またノートだと自由すぎてしまうところが、「マイ黒板」はちょうどよい自由度なのだと思います。困っていることをアドバイスしやすくなりました。

本当のねらいを見極める

国語科では手書きにこだわる声も多くあるかと思いますが、先生方はどのように捉えていますか。

小出)書くことが苦手な子どもは、書くことに時間がかかって、結局大事なその後の交流場面に出遅れてしまいます。交流に早く行きたくても自分はまだ書けていないから参加できないという思いをしていると思います。


岡根)そこが「マイ黒板」だと、抜き出す作業がシンプル化されていて書かなくてよいので、すぐに交流できます。交流ができない、また字形が整わずうまく友達にも読んでもらえず交流ができないということは、本来その時間に評価しなくてもよいことでつまずいていることになります。それを解消できることがデジタル教科書のよさだと思います。やはり大事なことは、その授業でどんな力をつけたいかということです。つけたい力を見極めて,どうすればそれを効果的に育てられるのかという視点で、アナログとデジタルを使い分ける、または併用すると考えればよいのではないでしょうか。


東)書くことは手段だと思うので、それが目的になってはいけないと考えています。鉛筆で文字を書いているときでもパソコンで文章を打っているときでも、どのような組み立てで書くのか、何を言いたいのかという思考活動自体は変わらないと思います。同じことをするのであれば、やり直しが何度でもできるデジタルの方が、本当に力をかけるべきところに力をかけられると思います。


小出)国語の先生には多いかと思いますが、私も書かせないとだめだという意識が強かったと思います。迷いはありますが、本当に大事な力をつけるために、そこを思い切ってデジタルにするということをやってみようと思うようになりました。特に漢字が書けなくなるのではないかという不安は今もありますが、漢字を書くことがねらいではないときにはデジタルを使ってもよい、漢字を書くことがねらいのときは別の活動をすればよいと考えています。今後はもっと柔軟に挑戦してみたいです。この力をつけるために、このようにデジタルを使っているということを、今デジタル教科書を使っている先生やまだ使っていない先生とも共有できたらよいと思います。



3人の先生方が受け持つ子どもたちの発達段階やデジタル教科書の使用歴、使用頻度はそれぞれ少しずつ異なり、お話を聞いている間にも相互にアイデアの交換がされていく様子がとても印象的でした。先生方自身が多様な視点を持ち、様々な手段・方法を受け入れているからこそ、多様な子どもたちの特性を受け止められるようになるのだと感じさせられます。